ASAメールvol205 2022年10月16日 八王子織物と多摩織

 






「八王子織物の『てしごと』を感じて」 SY(筑波大学4年)

 「てしごと」。 やわらかさと芯の強さを感じさせるこの響きが、なんとなく好きになりました。

 縦糸を上下にずらして、ぴんと張って、その隙間に横糸をすべらせる。足を踏みかえて、縦糸の 上下をいれかえ、くしで横糸を手前によせる。さー、かちゃん、とんとん。さー、かちゃん、とんとん、

  八王子駅からバスで10分、八王子繊維貿易館の3階にある、多摩織工芸館。ここで、120年の 歴史をもつ「澤井織物工場」の澤井伸さんにお話を伺い、手織り体験をさせていただきました。

八王子地域の織物の起源は、400年前までさかのぼります。澤井織物工場では、1900年ごろ に養蚕、のちに織物工場をはじめました。澤井さんは創業からかぞえて4代目。

「織物は下準備が8割」と語る澤井さん。布の設計図を描き、どこの業者のどんな糸をつかうか 選び、染色をして。今回体験させていただいた手織りは、一つの織物をつくる行程の、ほんの 一部だそうです。

 そんな職人魂あふれる澤井さんですが、ものごしやわらかく、とても気さくにお話しくださいまし た。「最近、カルパッチョにはまっていて」実はコックになりたかった時期もあるという澤井さんの 料理愛。最近は包丁を買って、本格パスタをつくることもあるとか。50年間、八王子の織物を担っ てきたのは、そんな澤井さんの「てしごと」への愛かもしれません。

  一方で、つくったものをどう売るのか、伝統工芸をどう守っていくのか、工場経営を続けるため に、頭を悩ませてきました。八王子織物は、和服の普段着の生地に使われてきたため、和装が 普段着として着られなくなっているいま、これまでと同じやり方では立ち行かなくなります。

澤井さんは、「来た仕事は断らない」といいます。デザイナーと協働し、時代のニーズにあった 商品を開発したり。手織りの技術を活用した、新しい技術を開発したり。多種多様なパートナーと 協力し、新しいものづくりに踏み出すことで、受け継いできた伝統技術を守っています。

「つくって、いいなと思っても、売れなければ意味がない。いろんな仕事をやらないと、食ってい けない」。商品を売るために、経営者としての手腕がためされます。「てしごと」を長く担ってきた者 の、ものづくりへの愛と、続けていくことの難しさを垣間見た気がします。

  伝統、とはなんでしょうか。技術や工芸品をそのまま次世代に残すこと、それだけではないんだ な、と思います。「てしごと」への愛や誠実さ。その時代の暮らしとどんな想いで向き合ってきたの か。技術者でも八王子出身でもない私ですが、そんな、技術や工芸品に宿る、目に見えない大切 なものを、受け取ってたのしませていただきたいなと思います。





桑都”八王子で織りなされる伝統工芸「多摩織」 YR

 

 私は現在、韓国のソウルを観光しています。これから仁寺洞(インサドン)という場所を訪れようとしているのですが、ここは「韓紙」を用いた工芸品や「ポジャギ」など、韓国の伝統文化に触れられる観光地として知られています。「韓紙」とは韓国伝統の紙で、建物の床や壁の内装材として用いられ、「紙千年、絹五百年」という昔の言葉があるほど、その丈夫さを特徴としているそうです。「ポジャギ」は、韓国のパッチワークで、日本でいう風呂敷のような工芸品です。

 仁寺洞を観光しようと思ったのは、今回の八王子織物工業組合への取材をきっかけに、伝統工芸品についてもっと知りたいと思ったためです。取材では、「多摩織」として国の伝統工芸品に指定された八王子織物の手織り体験と、職人さんへのインタビューをさせて頂きました。これまでの学生ライター部の活動を通して、学生による「桑都プロジェクト」の取り組みや食用桑の「創輝」など、八王子のシンボルである“桑”をテーマに取材を進めてきました。今回も「桑と多摩織」をテーマに情報をお伝えしていきたいと思います。

  「淺川を渡れば、富士の影清く、桑の都に青嵐吹く」。これは平安末期に西行法師が諸国巡幸の際に八王子で詠んだと伝えられる詩で、この頃から既にこの地域で養蚕が行われ、織物が織られていたことを示しています。桑都の歴史の長さを感じるとともに、身近な浅川について西行法師が歌を詠んでいたことには驚きを感じました。八王子織物の萌芽を示す記録は、1100年前の平安時代、延喜7年(907年)の延喜式文書に生糸・布が八王子の属する武蔵国に産するとあります。

 時は進んで明治32年(1899年)には、今回取材をさせて頂いた八王子織物工業組合が創立され、その後の時代や生活様式の移り変わりに応えて、「多摩結城」「紋ウール着尺」などの和装製品から、インテリア・服地・ネクタイ・マフラー、ストールなどの洋装製品の生産に軸を移していきます。現在では、「多摩織」の伝統技術と最新鋭の技術やトレンドを組み合わせ、国内外のファッションクリエーターやブランドからの注目を得ています。「桑の都・八王子」からイメージした製品づくりを通して八王子織物を広く伝えるためのブランド「マルベリーシティ(桑の都)」も展開されているとのことで、とても気になります。

 手織り体験では、手仕事の難しさゆえの奥深さの一端を感じました。微妙な力加減で結び目の粗さと仕上がりが変わることや、職人さんの手織り作業が奏でる音が子気味いいリズムを刻んでいたことが印象的でした。八王子で生産された糸を使い、この地に根付く伝統技術で、大変な労力をかけて職人さんが作り上げた織物には、奥深い魅力が織り込まれているなと、伝統工芸の魅力を感じた取材となりました。手軽な体験でとても素敵な模様に仕上がるので、皆さんも是非体験してみてください!






多摩織について OW

  多摩織りには、お召し纖、細織、風通織、変り綴、戻り織の5つの品種があり、いずれも着尺、羽織、コート、袴地などに利用されています。八王子産地の製品は伝統的に渋く実用的なものが多く作られてます。しかし、新しい感覚、優れた技術を取り入れつつ伝統的な手作業により特色のある逸品を産みつづけています。

多摩織に先染・先練の織物である使用する糸は、生糸・玉系・真綿の絶糸の3種類があり、5種類の織りで工程の重要な部分は熟練した職人の手作業及び機械織りされ、多摩織の特徴として、渋い風合いのものが多く軽くシワになりにくいため、日常使いに向いた織物として古くから人々に愛されてきました。多摩織は、お召織、風通織、紬織、絞り織、変り綴の5種類、それぞれの特徴は、お召織は、強撚糸を糊付けした緯糸で織りあげ生地を湯通しの仕上げをすることによりシボ(しわ)でシャリ感を出している織物。風通織は、二重組織で表・裏の模様が反対の配色になる織物。紬織は、糸の太さが均一ではない節がある手紡ぎ系で織り上げた味わいのある織物。絞り織は、二本の経糸をもじりながら緯系を織りこんだ透ける織物。変り綴は、多色の緯糸を使い複雑な模様を表現(交り優れ麵)した織物。

 多摩織は現代にも受け継がれていて、八王子織物の伝統に育まれた技術手法が江戸時代からの手工業的であり、5種類の織物を19803月に「多摩織」の統一名称のもと、経済産業大臣より伝統的工芸品の指定され、2020619日に、「日本遺産 霊気満山高尾山〜人々の祈りが紡ぐ柔都物語~」として、多摩織認定された。また、多摩織大型行燈は、ケーブルカー高尾山駅横の商業施設「高尾山スミカ」に展示されています。

 現代では、生地にそこまでこだわりがなかったり、大量生産を良しとしてきたため、ここまで用途別に使い分けてこられたということが印象的でした。洋服では織物を身につけることは少なくなり、それに伴い衰退するなどの影響を被ったそうですが、こういう時代だからこそ、服以外にも普段使う小物等に取り入れることで、伝統を未来へ繋ぐと共に、良さを生かしていけるのではないかと思います。













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