ASAメールvol194 2021年11月16日 「古代エジプト展の見どころ」

 

 ASAメールが古代エジプト展潜入⁉取材!

今回のASAメールは「古代エジプト展」の見どころ、搬入の様子、国立ベルリン博物館群エジプト博物館オリヴィエ・ツォーン副館長へのインタビュー全文をお届けいたします。
見に行く前に読んでも言った後に読んでも面白い内容になっております。


「身近な自然への豊かな想像力が生み出す古代エジプトの世界」

 八王子市の東京富士美術館にて開幕した企画展「古代エジプト展 天地創造の神話」。学生ライター部も先日、展示を鑑賞してきましたので、生で感じたその魅力を紹介していきます!

豊かな自然に恵まれている八王子。本企画展は、身近だからこそ見落としがちな周囲の自然に目を向け、足を運び、想像を膨らませることの面白さに気づくきっかけにもなると思います。皆さんも是非、東京富士美術館を訪れてみてください!

本展示は、ドイツの国立ベルリン博物館所蔵の日本初公開の作品100点以上を含む130点以上の作品から構成され、会場には知られざる古代エジプトの神話の世界が広がっています。個々の作品の精巧さはもちろんですが、展示全体を通して紡ぎ出される古代エジプトの独自の世界観や垣間見える人々の生活の様子が、本展示の魅力の一つです。まるで別世界に来たかのような不思議な感覚に浸れます。

 そのような展示の中でひときわ目を引くのが、自然や動物をモチーフにした作品の多さです。石像や石碑、装身具などのあらゆる作品に、ヒヒや蓮などの動植物、樹木や太陽などの自然が象られています。

 古代エジプトでは、身近な自然環境にある様々な存在に神性が宿ると信じられていたそうです。そのため、太陽・月・星などの天体、大地・大気・湿気・川などの自然、カバ・ヒツジ・ネコなどの哺乳類以外にも、ヘビ・カエルなどの爬虫類や両生類、ハヤブサなどの鳥類、さらにはサソリなどの節足動物や昆虫、魚類、植物など、まさに八百万の神々が存在していました。作品からは、そうした周囲の自然に対して古代エジプトの人々が注意深く観察していた様子が伝わってきます。

 『樹木の女神を描いたカーメスのステラ』という作品では、保護や思いやりといった役割と密接に関わり、来世でも死者を保護し、世話をする豊かな自然の擬人化である樹木の女神と、人々の様子が石碑に描かれています。『バステト女神座像』という作品では、癒しの女神であるバステト女神が猫の姿で表されています。古代エジプトでも、猫は癒しの象徴であったという現代との共通点も伺い知ることができ、とても興味深かったです。


「ファラオってなんだ?」

 最近、ダート競馬にハマっています。113日に行われたダート競馬の祭典・JBCは大盛り上がり。なかでもミューチャリーが勝利したJBCクラシックでは、地方競馬所属の馬が20年の歴史で初のV、鞍上は開催地・金沢所属の吉原寛人騎手でした。現地時間116日に行われたアメリカ競馬の祭典・ブリーダーズカップ(BC)では、アメリカ最強牝馬を決めるBCディスタフにて日本馬のマルシュロレーヌが勝利。国内調教馬が海外ダートG1競争を勝利するのは初めてのこと、ましてや世界的に最高レベルと名高いアメリカのBCダートを制するということで、マルシュロレーヌは日本競馬史にさん然と輝く世界のダート女王となりました。

 そんな今が激アツのダート競馬を見ていてふと思うのが、やたら「ファラオ」と名のつく馬が多いということ。今年のフェブラリーステークスを勝利したのがカフェファラオ、昨年のジャパンダートダービーを勝利したのがダノンファラオ。これらは米三冠馬・アメリカンファラオ産駒です。そしてその三冠馬とは関係のない、昨年のかしわ記念勝ち馬・ワイドファラオ。というわけで現在のダート競馬は「ファラオ」だらけなのですが、じゃあそのファラオって何なのさ? と思わずにはいられません。エジプトの王様、といったなんとなくな知識しかなかった私ですが、「古代エジプト展」にてそれを学ぶことができました。

 かなり強引な導入でしたが、やっと本題に入ります。古代エジプトの神話では、この世界は光もない暗闇が支配する混沌とした「原初の海」ヌンから、神々の意思により「秩序ある世界」が創造されたといいます。そして古代エジプト人は、この秩序をマアトと呼びました。マアトとは、宇宙全体を支配する秩序・摂理であり、個々の人間が生きていく中で遵守すべき最も重要な規範・道徳として考えられていました。

 私はこのマアトという考えに深く感心させられました。というのも、この概念そのものが現代の哲学のなかでも大きな位置を占める形而上学的な問いと倫理学的な問いの二つに対する答えとなっていると感じたからです。ざっくり言えば、形而上学とはこの世界に実在するものについて考える学問、倫理学とは正義について考える学問ですが、マアトはこれらに対して以下のような回答を与えます。この世界の生きとし生けるもの、それに関わらず遍く存在する事物はマアトによって成り立っており、マアトによって支配されているという決定論的な考え。そして、マアトはすべての規範・道徳として実在しており、マアトに従って生きるのが善い生き方であるというソクラテス的な考え。この二つがマアトという概念から導くことができます。当時の人々がすでに、「存在とは何か?」「正義とは何か?」を考えていたからこそ生じる概念であり、このような問いが人類に対する普遍的な問いであることを改めて認識することができたと思います。

 そしてそのマアトの行使者たるのが、ファラオです。人間社会のリーダーであるファラオは、社会の中でマアトを遵守し、遂行する最高責任者でした。そのため、異民族の侵入や、ファラオに対する謀反といったような明らかにマアトを揺るがす大きな事件に対しては、「善き神」であるファラオ自身が、強いリーダーシップをもってマアトを実践していくことが必要不可欠でした。

 ファラオとはマアトの番人であり、マアトに従うからこそ善き神たりうる存在なのです。プラトンは善のイデアを知っている哲人王こそが政治を担うべきだという考えを示していましたが、ファラオにどことなく似ている気がします。「善とは何か?」現代の法によって縛られた社会に生きる私たちにとっては考える機会に乏しいものかもしれませんが、改めて考えてみるとなかなか答えの出てこない難しい問いだと思います。そのような機会を与えてくれるのが、古代エジプトの彼らなのではないでしょうか。

 ファラオに限らず「古代エジプト展」は展示が様々で、古代エジプトの文明力の高さがうかがえます。日本初の展示も多かったので、とても貴重な機会だと思います。私はマアトやファラオという概念から哲学的な問いを考えさせられましたが、それ以外にも人によって考えさせられることは様々だと思いますので、ぜひ足をお運びください。12月のチャンピオンズカップと東京大賞典では善き神「ファラオ」たちに注目して、ダート競馬を楽しみたいと思います。それでは。

 

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